2021.6.18 / 花の名所、花のイベント
ひとつ前の記事で、近所の公園のフジの木の移植問題を機に、景観をデザインすることができるつる植物としての
フジにとても関心が高まり、ここ数年のうちに見た心に残った国内外のフジのある風景について書いてみました。
今回はその続編、「フジがつくる美しき風景(後編)」と題して、僕の住む街、古都・奈良の春日大社神苑にある
萬葉植物園内の「藤の園」のフジについて、詳しく紹介したいと思います。
「フジがつくる美しき風景(前編)」でも、さわりだけ紹介した奈良・春日大社神苑にある萬葉植物園。
萬葉植物園のホームページによると、萬葉植物園はその名の通り「万葉集」に詠まれた植物を植栽する植物園です。
昭和7年、万葉集にゆかりの深い春日野の地に昭和天皇より御下賜金を頂き、約300種の萬葉植物を植栽する
日本で最も古い萬葉植物園として開園したそうです。
なるべく人的な手を加えず、自然のままに植物を生かした園内は、約3ヘクタール(9,000坪)の広さを誇り、
萬葉園・五穀の里・椿園・藤の園というゾーンで構成されています。
その「藤の園」には、20品種、約200本のフジの木が植栽されています。
園路の沿って藤の園へ入ってすぐの場所で目に飛び込んできたのがこちらのフジ。
ひとつひとつの花が大きく、他ではあまり見かけないフジの花でした。
花のにクローズアップしてみます。
こちらは、「八重黒龍藤」という品種で、現存するフジの中では唯一の
八重咲品種のフジらしいです。
別名、「牡丹藤」とも呼ばれ、濃黒紫色の花が玉咲きになる品種です。
こちらも同じく、「八重黒龍藤」。
紫色が濃くて、とても存在感のあるフジで、八重咲の花が好きな僕は一目惚れでした。
「和」の庭だけでなく、「洋」の庭にも調和してくれそうで、帰りがけ
この萬葉植物園内で販売されていた、この「八重黒龍藤」の幼株を購入し、
自宅で育ててみることにしました。
八重黒龍藤に憑りつかれたあと、園内のそこかしこに美しい樹形のフジの木がたくさん植えられていることに
気づきました。
一般的なフジの仕立てとして、いわゆるフジ棚(パーゴラ)仕立てが有名ですが、ここ萬葉植物園のフジの木は、
『立ち木造』という、四方に伸びた枝を支柱で支える独特の形式をとっています。
藤棚のように見上げずに目線で花が観賞できるのが特徴です。
同じ木を下から見上げると、このような感じです。
四方にツル(枝)を伸ばす、フジの特徴を活かした仕立て方は、まるで実物大の盆栽のようです。
とてもダイナミックです。
こちらは、「新紅藤」という、淡いピンク色の花を咲かせる品種です。
「立ち木造」と言われる仕立て方で作られたフジの樹形により、花が外向きに咲くことで、
常に光を浴びて美しく見える立ち姿が際立っています。
まるで枝垂れ桜のようです。
これらの「立ち木造」のフジがどのように仕立てられているのか、とても味が湧いて、
いわゆる剪定・誘引(仕立て)作業が行われる2月頃に、萬葉植物園を訪れてみました。
こちらが、同じ「新紅藤」の冬の様子。
株元から外側に向かって放射状に伸びる枝を、段差を付けながら、立体的に花を咲かせるように
見事に支柱が配置されていました。
こちらは、谷のような場所に、高木の木々の間から顔を出すように
薄紫色の花を咲かせています。
原生林の中で、自然に咲くフジの木のような仕立て方です。
「九尺藤」という品種で、花穂が長く枝垂れ、9尺にもなるということから
名づけられた品種です。
長い花穂は風にたなびき、とても風情があります。
萬葉植物園には、「棚造り」いわゆるフジ棚(パーゴラ)仕立てのフジもあります。
棚造りのフジは、その下を歩けるようになっていて、垂れ下がるフジの花を
眺めることができます。
パーゴラの横にも、フジの花がこぼれ咲いていました。
こちらは、また別の品種のフジですが、冬の剪定・誘引(仕立て)の時期の様子です。
剪定は、まだこれからのようです。
つるバラもそうですが、葉も花もない、ツルだけの頃に心惹かれます。
この時期になると、園内のあちこちで、フジの剪定・誘引(仕立て)作業を行っておられます。
フジの剪定・誘引の様子を間近にみる機会はあまりないと思いますので、
良い機会だと思って、長時間、そばで見学させてもらいました。
何人もの職人さんが棚の上に登って、剪定作業をされていました。
棚造りと立ち木造りが混合したような仕立て方のフジです。
立ち木造りでは、枝先をぴっちり留めず、枝の流れに沿って自由にしているように見えます。
フジの性質を見極め、咲いた風景を考えながらの剪定作業は、とてもセンスが問われる作業かと思います。
剪定時期のフジを見る機会はなかなかないと思いますので、同じような写真ですがいくつか紹介しておきます。
支柱をリズミカルに上下させながら、立体的な風景を描いています。
こちらでは、何本ものフジが重なるように立ち木造りで仕立てられています。
再び、美しい開花時期のフジの景色をご紹介します。
スギの大木の間に配置された濃い紫色のフジは、「黒龍藤」ではないかと思います。
本当に盆栽のような美しい樹形です。
カメラのアングルを少し左に向けてみます。
濃い紫色の黒龍藤の奥には、白藤、そしてその横には淡いピンク色のフジ。
一般的な淡い紫色のフジだけではない、多彩な色彩がとても美しい風景を作っています。
このゾーンの冬の仕立ての様子。
起伏のある地面と、上下しながら横に広がるフジの枝。
こういう風景の作り方もあるんだな、といたく感心しました。
淡いピンク色のフジの花が、池に張り出すように咲いています。
池の周囲には、何本ものフジの木が配置され、重なり合うように咲いています。
重なり合ったフジの花の色が濃淡のグラデーションをつくり、
とても幻想的な風景となっています。
この淡いピンクのフジは、「口紅藤」
何とも色っぽいネーミングです。
こちらは、池の上に渡された井桁に誘引された「本紅藤」。
黒い水面の上に、色鮮やかなピンクが浮き立ちように咲いている様は、とても見事です。
一転して、冬の様子はこちら。
こうして冬の誘引時と春の開花時を見比べると、よくわかりますね。
どのように仕立てると、このように咲くのかが一目瞭然です。
引きのアングルで撮影してみました。
黒い水面に反射する、水鏡となったピンクのフジがとても幻想的です。
こちらも、池に大きく張り出すように仕立てられた白藤で、「白野田藤」。
中心の株元の上部は、枝を上の方に立ちあげて、周囲は、低く仕立ててあります。
とても立体的な見せ方です。
冬の仕立ての様子。
我が家の庭でも、広いスペースがあれば、こんなフジの仕立てをやってみたいです。
萬葉植物園の藤の園には、他にも珍しいフジがいくつか植えられています。
こちらは、「白甲比丹藤」。
早咲き品種で、ひとつひとつの花が大きいのが特徴です。
こちらも早咲き品種のフジで、「岡山一歳藤」。
花が大きく、葉も茶色く、また幹も白く、独特の樹形は他のフジとは一線を画して異彩を放っています。
このように、フジはいろんな地方で品種改良され、その地方の名前が付いたものが多いです。
如何でしたでしょうか、奈良・春日大社神苑、萬葉植物園のフジ。
「立ち木造り」と呼ばれる、フジの独特の樹形を活かした仕立て方。
フジと言えば、パーゴラ(フジ棚)仕立てのイメージが強いですが、自然樹形に近い美しい風景をデザインする
ことができる「立ち木造り」に、一般住宅のガーデンでのフジの活用方法の可能性を見たような気がします。
5月初旬、奈良へお越しの際には、是非、春日大社神苑・萬葉植物園にも足を運ばれてはいかがでしょうか?
前編では、国内外で見たフジが作る美しい風景をいくつか紹介しました。
特に、イギリス・ロンドンの住宅街で見た、建物と一体的にデザインされたフジのある風景、
そして、今回の萬葉植物園で見た立ち木造りでつくるフジの風景も、とても印象深いものがあります。
この両方のイメージをミックスしたような美しい風景を、いつの日が描いてみたいと思いました。
皆様のガーデンデザインの中でも、参考にしていただけたら幸いです。
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【 奈良・春日大社神苑 萬葉植物園 について 】
住所:〒630-8212 奈良県奈良市春日野町160
TEL:0742-22-7788 (春日大社)
※ 詳しくは、以下↓の萬葉植物園のHPをご覧ください。
https://www.kasugataisha.or.jp/manyou-s/
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